新卒で躓くことと女の命は短い話 2
ヤママユ子は29歳だ。
昨日、新卒で躓くと立ち直ることは困難だと言った。
もちろんバイトから社員登用されたり、バイト経験を生かして正規の仕事に転職する人もいる。
私もチャンスがあれば転職活動を続けたいと思っている。今は公務員試験が終わったばかりで疲弊しているが…
だが転職活動をする上でまたひとつ問題がある。今までは考えたことのないことだ。
私が既婚者で29歳だということそのものだ。
この人すぐ子供ができるのではないか?
もし私が採用側なら間違いなくそう思う。
結婚していなかったとしても、すぐ結婚するのではないか?と思う面接官もいるだろう。
いずれにせよ女性は自分の努力や学歴とは関係ないところで、つまり年齢と状況によっても転職しやすいかどうか大きな影響を受ける。
そう、タイトルの「女の命は短い」は、転職市場において、という意味だ。
私の場合は大学を出てから今までの7年ほどが、キャリアを積むための大切な寿命、だった。
何かを始めるのに遅いということはない。しかし時間も時代も、戻っては来ない。
そして例え今から新しい仕事を始めたとして、産休を取ろうと思ったらやはりそれなりの期間働かなければならない(これは私の勝手だが)。
私は女だけの職場で働いているが、妊娠して疎まれたり、仕事が原因で流産したり、不妊だったり、育短の人が嫌みを言われて辞めたり、というのをこの2年半で全部見てきた。
もちろん子育てと仕事を両立させている人もいるが1、2人だ。
女が仕事をするというのはまだまだ難しいことに思える。
新卒で躓くことと女の命は短い話
ヤママユ子は内定がないまま大学を卒業した。
もう6年以上前の話だ。
大学3年のときにリーマンショックがあった。
合同会社説明会ではまわりに圧倒されつつ各企業を回るが、多くの企業から
「文系はいらない」「今年は女子はとらない」
と言われ続ける。
東京の空気が合わず田舎へのUターン就職にこだわっていた私が受けられそうな企業はそうそうなかった。
思い出して書いているだけで涙が出そうだ。
そのくらい悔しかった。今も悔しい。
ずっと真面目に勉強だけやってきた。
中学では半年ほど不登校の期間があったが登校してる子より成績が良かった。
高校も総代で卒業し、大学と学生マンションの往復の日々を越えて、そして、なのに、私には何も残らなかった。
気づけば大学を卒業する頃には摂食障害になっていた。4年以上付き合っていた年上の男とは終わっていた。
節くれだったガリガリの体で必死に受けた地方上級公務員は最終面接で落ちた。
死にたかった。
大学を卒業して間もなく祖父が癌で亡くなった。
数ヵ月後地元のショッピングモールでショップ店員のバイトを始める。
とても楽しかった。
年の近い仲間と可愛い洋服。
体重も増え体力が付き、時給もあがりやがて顧客もついた。
自分で働いてお金を得るのは社会に認められた気がした。
だがバイトのままではいられないので就職活動を継続していた。
3年半経った頃、ある小さい会社に正社員として受かった。
そしてそこはすぐに労基に相談して退職することになる。
最後の最後に挨拶に行った時、給与として数万円を手渡しされた。あれ以来行っていない。
そして辿り着いた今の派遣の仕事。
契約時間が月140時間ほどのため月給は安いが仕事内容は好きだし誰にでもできるようなものではない。
少しだけ誇りに思っていた。
私は今日まで、そのとき自分ができることをやってきたつもりだった。
しかし昨日の面接で気づいた。私はどうしようもない奴だ。
大学を出るとき将来についてどう考えていたんですか?
履歴書にある株式会社○○のアルバイトでは何を売っていましたか?
で、今は派遣で仕事してると?
面接官の言葉が刺さる。
私がやって来たことはけして簡単な仕事じゃない。
けして腰掛けでやってたわけじゃない。
販売はお人形みたいにニコニコしてりゃ売れる仕事じゃないんだ。
言えなかった。
悔しかった。
せっかく大学で資格を取ってきたのに、今までの職歴は今回受けた仕事とギャップがありすぎた。
大学まで親に出して貰って、私何してるんだろう。
新卒で、第二新卒で、正社員になれなかった。
非正規の職歴が長引けば長引くほど、どこの企業も決まりにくくなる。
この国は新卒で躓くと立ち直れない可能性がとても高い。
そして私は29歳になった。
長くなったので、女の命は短い話はまた明日にしよう。
あとは不採用通知を待つだけ
ヤママユ子は面接て撃沈してきた。
面接苦手だなぁ。
言いたいことを用意していってもその場の雰囲気に飲まれてあーあ、になってしまう。
私の場合職歴もつっこまれるし。
必死に日程を合わせてたくさんの試験を受けてきてこの結末だ。
明日からまた百貨店の仕事をする。
家の中はめちゃめちゃだ。こちらもきれいにしなければ。
疲れて帰ってきたが、転職活動のおわりを迎えて少しばかり穏やかだ。
受かっても受からなくても
ヤママユ子は5連勤を終えた。
いつもならクタクタだが今日は何か違う。
恐らく自分でも気づかないうちに気を張っているのだと思う。
明日は面接だ。
申込みから3ヶ月近く、いよいよ最後の試験だ。
何の対策もしていない。
志望動機も口に出して練習したことはないし、自治体のホームページをすみずみまで見たこともない。
明日スーツを着て会場の部屋をノックするまでが私のピークだ。
私の気持ちはなぜか今フラットで、それは恐らく、「終わり」が来るからだ。
受かったら今の派遣の仕事とはおさらば、派遣会社に辞めると伝えたらあとは有休を消化しながら退職日を待つ。
サクッと辞めたい気持ちもあるが、税金や保険のことを考えると次の職場で働く前日までは在籍していたい。
こういうところもヤママユ子らしい。
そして落ちても私は安心するんだろうと思う。
今日まで私は仕事と家のことと転職活動ばかりしてきた。
一緒に暮らし始めたばかりの主人との時間もろくに取らずにここまで来た。
派遣社員の「終わり」
転職活動の「終わり」
どちらに転んでも私はほっとするのだろう。
公務員面接まであと二日間
ヤママユ子は今5連勤の4日目である。
連勤が終わって次の日が公務員面接。
ある専門職の資格を持っているため受験し、一次試験は受かったものの
大学を出てから7年目、未経験の職種の面接に受かるとはハナから思っていない。
だが悪あがきぐらいしてもいいではないか。
面接というのは非常に苦手だ。
普段接客業でスラスラ話せていてもああいう場では固まってしまう。
しかし練習など対策している時間もない。
はぁ。憂うつだ。
休憩が苦手
ヤママユ子が仕事をする上で一番苦手なのが毎日二回やって来る休憩時間である。
会食恐怖というほどではないが、家族以外と食事をするのは極めて苦手だ。
20代前半の頃に摂食障害を患ったのが関係しているかどうかはわからない。
割りと仲のいい人とならとくに緊張しすぎることもないのだが、大抵の場合メーカーの社員様と取ることになる。
向こうは私と絡みにくいと思っているだろうし(思い込みかも知れないが)、私は一人にしてくれよと思う。
かといって私一人だけ他の場所で食事を摂れば不自然だ。
何より私がいないところで何を言われるか分からない。
また、仕事中は食べ物があまり入らないので毎日作るお弁当も小さい。
少なくない?足りんの?といじられるのも苦手だ。あなた方とだから入らないのだ。
拘束時間中は館の外に出ることはできない。
休憩室に居たくないとき、私は従業員トイレの個室にこもるのだ。
自分でも何してるんだろうと思う。慣れているので涙は出ないがひどく惨めだ。
ここでお弁当が食べられたらいいのにと思う。
被害妄想甚だしいのも分かっている。
しかしここで働き始めてすぐ、「水が合わない」という言葉を初めて身をもって理解した。
二年半よく頑張ったと思う。
職場で孤立してるかどうかも分からない
ヤママユ子のことを皆どう思っているのだろう。
本当に仲がいい人、純粋に心配してくれる人、
大丈夫?と聞きながら噂のネタを探す人。
正直仕事には行きづらいと言うか、モチベーションがかなり下がった状態だ。
次に何かきっかけがあればまた爆発してしまいそうな状態。
売り場で全裸にでもなれば気がふれたと皆納得してくれるんじゃないか、と
そんなあり得ない考えが浮かぶくらいの精神状態だ。
だがそれでも今日も明日も仕事に行くのだ。
明日はお客様の予約が入っている。明日私の働くショップには私一人しか出勤しない。
私がいなくなればそこはがらんどうだ。
そして行かねば女が廃る、負けな気がする、そんな根拠のない意地だ。
公務員試験は今週末控えている。それまで1日も休みはない。
たったひとつの専門職の枠のため8月から準備してきた。
筆記や論文で通っても、面接は苦手だ。
何より現役の大学生たちに太刀打ちできるフレッシュさや知識はない。
ため息ばかりだ。